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研究?産学官連携

岩盤の強度や変形特性の新たな評価方法を確立

~岩盤の力学特性試験をめぐる様々な問題を解決~

Frontiers of SU Research

NEXT GENERATION理工学研究科富樫 陽太

山岳トンネルや地下トンネルの建設の他、大きな建造物の土台とするための基礎工事など岩掘削が行われるシーンは数多い。建造物や工事の安全を担保するには、工事を行う岩盤の特性を把握する必要があるのは想像に難くない。しかし、従来、それを実現するには様々な課題があったという。そのような課題を解決するべく、岩盤の強度や変形について、様々な試験方法を開発してきたのが本学 理工学研究科の富樫陽太助教である。2023年には、岩の力学の分野で輝かしい業績をあげた研究者を表彰するドイツの「ウォルター?ヴィトケ賞(Walter Wittke Prize)」を日本人で初めて受賞するなど、世界的にも注目される富樫助教に、研究内容について話を聞いた。

膨大なコストと手間がかかっていた岩盤の力学特性試験を効率化

 山岳トンネルや大きな橋脚、あるいは原子力発電所などで岩盤工事が必要となる建造物をつくる際には、岩盤の力学特性を把握する必要がある。なぜなら、場所によって、岩盤の強度や変形特性が異なるからだ。
 従来、岩盤の力学特性を把握するために採用されてきた試験方法では、採取する方向を変えた膨大な岩盤のサンプルを1つずつ評価していかなければならなかった。これでは試験を実施する上でコストや時間がかかるのは明白である。
 そこで私たちの研究室では新たな試験方法を開発。原則、1つのサンプルで1度試験を行えば、岩盤の強度や変形特性を明らかにできるものだ。
 具体的には、サンプルにひずみゲージ(センサ)を複数つけ、1度に6つのひずみテンソルを計測するが、この方法を用いれば、岩盤の力学特性試験を効率化できるだけでなく、従来方法では実現できはなかった試験も可能になる。
 例えば、水分が浸透すると岩盤の硬さは変化する。そのため、含水量が岩盤に及ぼす影響を把握することは、雨による岩盤崩壊のリスクを判定することに役立つ。しかし、その試験を行うのは、従来の岩盤の力学特性試験では困難。含水の影響を調べるには、異なる含水量ごとに試験を行う必要があるが、含水量ごとにサンプルを複数用意しなければならないとなれば、膨大な時間と手間がかかる。そのためこのような試験を行うのは現実的ではなかった。その点、私たちが開発した方法なら、含水量ごとにサンプルが1つあれば事足りる。これなら十分実現可能という訳だ。
 その他、熱の影響など、岩盤に関する様々な現象の解明に役立てることができる。
 放射性廃棄物の地層処分時には廃棄体からの発熱があるため、その影響を把握することは安全性を担保するためにも意義深いと考えられる。

地震の揺れに応じた岩盤の単純せん断試験方法を開発

 さて、現在注力しているものの1つに「ねじりを利用した岩石角柱供試体の単純せん断試験方法」の開発がある。地震の揺れに応じて、起こる岩盤の単純せん断変形に対する評価方法を確立しようというもの。
 かつて、岩盤を掘削してつくる山岳トンネルなどの構造物は、地震が起きても山と一緒に揺れるため破壊されないということが定説だった。しかし、近年では地震の際に被害を受ける山岳トンネルが増えている。
 岩盤構造物の耐震性能を向上させるには、地震の揺れに対する岩盤の評価が求められるのはいうまでもないが、現状では岩盤の単純せん断変形を試験する方法は存在しない。この課題を解消するために、取り組んでいるのが先に挙げた研究なのだ。
 研究では、角柱にした岩盤のサンプルを、放射状に溝切りしたキャップと台車で挟んでねじる装置を作成。この装置によって、せん断力をサンプルにダイレクトに伝達することを可能にしている。現在、継続的な実証実験を行っている最中だが、試験の妥当性は確認済みだ。
 せん断力を受ける岩盤の性質の評価は、地震に対する備えだけでなく、自動車や列車などの振動を受ける道路や波の影響を受ける洋上風力発電の基礎岩盤の設計にも役立つものだ。
 今後、実際の現場での適用性を確認していくつもりだが、単純せん断モードの岩盤物性評価を行いたい企業や組織の協力を仰ぎたいと考えている。
 また、鉄道と道路の立体交差(アンダーパス化)を実現する工法の1つに、函体推進工法というものがあるが、この工法に関する研究も進めている。
 函体推進工法とは、線路の下にあらかじめ作っておいた箱型のコンクリート構造物(ボックスカルバート)を押し入れて、トンネルを作る方法。しかし、ボックスカルバートが大きいと強い摩擦力が生じ、施工が難しくなるのが課題になっている。この課題を解決する新しい摩擦低減材の開発に取り組んでいるのだ。
 私の専門は、岩盤力学とトンネルだが、以上の他にも、様々なテーマで研究に取り組んでいる。"Everything welcome(なんでもござれ)"が、私たちの研究室のモットーだ。研究について、何かしらの興味を抱いた方にはぜひ連絡いただきたい。

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